はるがいったら 作:飛鳥井千砂 集英社 2006.1 超個人的評価:★★★★+☆ 第18回小説すばる新人賞受賞作、らしい。 わたしは普段受賞履歴とかはあんまり気にしないのですが(期待しすぎて損をしている気分になるので)、これはおもしろかったです。 何事にも完璧を求める姉の園(ソノ)と、なんでもそつなくこなすかわりに熱くなるものを見つけられない弟の行(ユキ)。 両親の離婚で離れて暮らす二人は、ごくたまに一緒に出かけるくらいには仲のよい姉弟だ。 幼い頃彼らが拾った愛犬ハル。正式名称はハル(仮)。14歳のこの犬はすっかり老いて、今では行に介護されている状態。 彼らをとりまく世界は不完全で不安定なバランスの上にあって…… とりたてて大事件はおこらないけど、ほんのすこし哀しくて、とても優しいお話。 なんかこの作品、とっても心に染みこんできました。 お話は園と行の一人称で交互に語られます。 二人とも外側から見れば結構完璧なんだけど、内面はどこかぐらぐらしている。 園は結婚の決まった幼なじみと関係を持っているし(不倫?)、行は自分自身に疑問を持ち始めてる。 出てくる人たちも、見ていると憎々しくなったりするんですが、でもやっぱりどこか優しい部分をもっていたりする。 こうなるとテーマはやっぱり人間なんですかね。 しょーもないものなんだけど、やっぱり愛しいんだよって。 そして、なによりも彼らの間にいる老犬ハルがいい。 自分ではもう動くことも食べることもできない、人間で言ったらもう植物人間みたいな状態で、ただ横たわっているだけです。 なのに、彼の存在があることでお話がとっても生きている。やかましいくらい主張してくる人間たちの存在感を、ハルはただいるだけでつつみこんでいるような気がします。 うーん、うまく言えないのですが…… ちなみにこのお話のキングオブ駄目な人は、幼なじみの恭ちゃんです。 (こっそりがんばって)洗練されたかっこいい系の彼。 婚約者がいるのにあんたなにしてんのさ。 彼が結局なにをしたかったのかが、ちょっとわかりませんでした。 それは優しさのつもりなのかー。くそう、ダメ男め。 ぼろぼろ泣いたりはしませんでしたが、ほんのり悲しくて優しい良い本でした。 (無理矢理まとめてみる)
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