銀の匙 作:中勘助 角川書店(角川文庫) 1988.5 超個人的評価:★★★+☆☆ 書斎にあるがらくらの入った本棚の引き出しにひっそりとしまわれたうつくしい小箱。 その中には銀色の匙が一つ。 その他にも犬の土人形や丑紅の丑。幼いころの宝物たちだ。 ひっそりとやさしいものたちに呼び起こされてよみがえる思い出。 決して色あせない、あの頃のことを…… 病弱だった幼年時代。 ちょっと丈夫になって頭もよくなった尋常小学校時代。 最後はもう少し時間がたって青年時代。 特筆すべき事件が起こるお話ではありません。 ただ、その誰にでもあるような日々を回想して描いているだけ。 学校で先生にほめられたとか、しかられたとか誰かとケンカしたとかそんな日常のこまごましたこと。 人よりかなり体が弱くて、過保護なおばさんに育てられた主人公。 だけど別に変わったことは何もなくて、人なら誰にでもあるような、少しだけ特別な自分の記憶が時系列通りに書いてあるだけ。 だからドキドキハラハラなおもしろさとは無縁です。 けど、なんかいいんですよね。 自分の幼いころの宝物を思い出しました。 あえてツッコミを入れるなら主人公泣きすぎ!ってことでしょうか。 だからセンチメンタルって評価をされるんだと思う。 この物語には三人の女性が出てきます。 まだ病弱でだれも友達がいないときにおばさんの計らいで友達になったお国さん。 学校に通い出してしばらくしてお隣に越してきたお惠ちゃん。 そして、最後に出てくる美しい、友人の姉。 この人たちとの関わりがまた素敵なんです。 お惠ちゃんなんかこの年で最強でした。逢って、お友達になったのに次にあったときには「勉強できない子とは遊ばない」ですからね。近所のガキ大将の側に着いたかと思えば、家の人にアイツには近づくなって言われてあっさり捨てたりとか。君はこの時代でも強く生きてゆけると思うよ!! 秋の夜長におすすめの一冊だと思います。
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