風が強く吹いている 作:三浦しをん 新潮社 2006.9 超個人的評価:★★★★-☆ 三浦しをんの駅伝モノ?!というとびっくりですが、若い大学生の青年たちがわらわら出て来る話、というとちょっと納得してしまいました(笑) そう、駅伝モノなんですよ。 高校時代、監督とトラブルを起こし陸上部をやめた走(かける)。 彼にとって走ることは息をするのと同じくらい自然な事だ。 大学も決まり、上京した走は大学構内で野宿という極限生活を送っていたある日、コンビニで万引きをして逃げているところを同じ大学の4年生、清瀬に出会う。 走は清瀬の進めで彼の住むおんぼろアパート、青竹荘で暮らすことになった。 そこで待っていたのは8人の個性的な住民たち。 そして、このメンバーで箱根駅伝を目指すという清瀬の驚くべき野望だった。 残された時間はわずかに8ヶ月……ほとんどが陸上未経験の仲間たちは無事箱根で走ることができるのか? いやあ、なんかすごい話でした。 ほとんど素人のメンバーが箱根駅伝を目指す。いやそんなん無理だろって展開なんですけど。そこはまあ、小説ですから。 陸上のトレーニングとか、彼らの成長とかは読んでいてとっても自然でした。 そしてなんといってもすごいなあと思ったのは、駅伝のシーン。 読んでいてちょっと泣きそうになってしまった。 駅伝って、一人ではできないんですよね。そして、走るのってやっぱり大変なこと。 どうして走るのか。なんのために?仲間のため?もてるため?就職で有利になるから? みんな最初の動機は不純なんですが、それがだんだん真剣になってきて、お互いを思いやり始める。 うーん。上手く言えてない気がする…… 残念ながら私も走ってみたい!とかにはなりませでしたが(走るの超苦手の運動音痴ですワタクシ)、今年の正月はちょっと注目して駅伝を見ようかなと思いました。 以下、少しネタバレを含む覚え書き キャラクターについて。 みんなしっかり個性は出てるんですが、主人公の走の性格だけちょっとぐらぐらしている気がした。 走ることだけで他は興味がない子ってワケではないんですよね。 特に何かに対してキレるところとかが、なんとなく曖昧でして。 作者自体がこの子の性格を掴み切れていないのかな?と思いました。 彼を見ていて、バッテリーの巧を思い出しました。ああいう感じにしたかったのかもしれません。そんな勝手な推測。 そしてハイジこそ清瀬さん。 みんなの生活を取り仕切っている影のボス(って別に影ではないか)、でもこんな大学4年生は嫌だなあ。 妙に大人びているというかなんというか。 ハイジ自身にもどこか悩んでいるところとかがあってもいいと思うんですよ。 なのになんだかすごく安定している。なんか逆にもったいない。 双子のジョージとジョータ。 もてたいという理由だけで駅伝を始める彼ら。 見ていてマンガ、『桜蘭高校ホスト部』の双子を思い出した。 いや、別にだから何というワケではないんですけどね。 葉菜ちゃん。 双子の両方が大好きな八百屋の娘。 双子も両方ともが彼女を好きになってしまったり。さらに知らないうちに走も恋をしたりと結構重要キャラではあるんですが。 私は彼女はいなくてもいいと思いました。そもそも恋愛エピソード自体が微妙な終わり方をしているので。なくていいような微妙なかんじ。それだったらもっと走の内面を掘り下げてほしかったかなあ、と。 走っているといける、ランナーズハイのさらにその向こうの世界。 ちょっと前に読んだ恩田陸さんの『チョコレートコスモス』を思い出しました。 なんていうか、演技と走ること。そういう違いがあってもプロとかその域に達したひとがたどり着く場所みたいなものがあるのかな、ってぼんやり考えてみたり。 でも演劇の時にはリアリティがない!!ってつっこんだクセ(→チョコレートコスモスの記事参照 )に、駅伝になると「小説だしね?」と割り切る私。 なんか自分の中に世の中の不条理を見ました(笑)
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